2020年3月30日

持続可能な地域づくりのための「学びあい」実践事例⑤

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小さな村の…大きな学び!?③
〜国際防災会議の「ふりかえり」と「田んぼde哲学」プログラム〜
(みた農園 三田善雄)

最初のブログでは、「第1回大井地区国際防災会議」の「小さな村の…大きな学び!?①」概要についてお伝えしました。そして前回「小さな村の…大きな学び!?②」は、会議実施の背景にある地域の開発問題や、その問題対応を通して地域が学びあってきた防災意識についてお伝えしました。今回は、その防災会議をハンドブック『持続可能な地域づくりのための「学びあい」ハンドブック〜コーディネートとそのふりかえり』を通してふりかえります。また会議後にシャプラニールのお二人にご参加いただいた「田んぼde哲学」プログラムの様子についてもお伝えいたします。

「ネパールの先進性に学ぶ!」

地域住民と共に籠に石を詰める事業スタッフ(写真提供:シャプラニール=市民による海外協力の会)

「One River One Community」を合言葉に一つの河川の流域全体を一つのコミュニティと考え、地域住民自らが主体的に関わる防災・減災活動の定着を目指し、ネパール・チトワン郡で取り組んでこられた「シャプラニール=市民による海外協力の会」の地域防災事業。それはまさに我々が日頃の活動を通して地域の防災課題として感じながら手がつけられないできた、「住民主体の流域マネジメント」や「災害文化の構築活動」と多くの共通項があると考え、会議の開催を企画しました。

当日の会議では双方の地域での防災・減災・縮災活動を学びあうことで、事前の備え、河川流域全体への視野、住民の主体性の醸成など、改めて地域で防災・減災・縮災活動を実施していく上で重要なポイントを、お互いの経験に即しながら確認することができたと思います。

また、ご近所さんとの日々のコミュニケーションを基本に、流域全体への意識を常に持ちながら、最新の研究動向なども取り入れつつ、日頃からの小さな活動を丁寧に積み重ねていくことの大切さについても、再認識することができたと思います。

「学びは事前準備にあり?〜「学びあい」ハンドブックの活用」

「学びあい」ハンドブックを活用した「地域・学びあい・入門セミナー」の様子(2019年9月14日・15日/写真提供:開発教育協会)

ここでは【「学びあい」のリソース調整】(ハンドブック:第3部解説編p.92)の視点から今回の第1回大井地区国際防災会議をふりかえってみます。

地域内外の人びとや組織間で持続可能な地域づくりを後押しする「学びあい」ができるような関係づくりや組織づくりをする

今回は「地域防災・減災・縮災」を基調に置きながら、「One River, One Community」・「地域災害文化の構築」をキーワードに、互いの地域実践を学びあいました。

事前に大井地区連合町内会「里山活性化研究会」や足守中学校区防災会議の定例会で、シャプラニールのバンダルムレ川流域での活動を紹介し、また当日の会議での質問項目についてのブレイン・ストーミング等も実施し、シャプラニール側には、進捗状況という形でこちらの準備状況も事前にお知らせしました。

会議前日には、岡山NPOセンターが主催したシャプラニール全国キャラバン岡山講演会に大井地区の有志メンバーと参加。そして当日の会議前には、シャプラニールの小松豊明さん(事務局長)とキル・バハドゥール・ガレさん(ネパール事務所プログラムオフィサー/防災事業担当)を、会議で報告する大井地区の防災活動と関連するスポット(黒谷ダム、二面橋など)へと案内させていただき、西日本豪雨時のダムや河川の写真とともに、地域のハザードマップなども確認しました。

「学びあい」の参加者に見合うように、「学びあい」に有効な素材や情報、人物などのリソースを見いだし、「学びあい」の参加者とつなぐ

今回は会議の準備のために、シャプラニール防災活動の「One River, One Community」というキーワードから、これまでの大井地区の地域防災活動を省察することで、西垣誠先生の「流域マネジメント」や河田恵昭先生の「災害文化の構築」という視点から我々の活動を整理することができました。

そしてまた「湛井堰公園の1893年(明治26年)の洪水犠牲者供養塔」や「井風呂谷川公園の宇野圓三郎の石積砂防堰堤」などの水害・防災史跡の存在を、あらためて知ることもできました。

このように、今回の国際防災会議に向けた事前準備のプロセスを通じて、理論的、歴史的に整理された地域への「まなざし」は、当日の国際防災会議という時間の小さな軸となることを起点に、今後また少しずつ変化や迷走も繰り返しつつも、大井地区での多様な「学びあい」を生成しつづけていくような大きなリソースとして位置づき、より多くの「学びあい」の参加者をつないでいくことになると思います。

地域における「学びあい」の多層的なコーディネートを調整する

例えば、筆者は今回の国際会議に対して、会議のコーディネーターという立場以外に、地元農家、大井地区連合町内会里山活性化研究会サブリーダー、足守中学校区防災会議メンバー、前日のシャプラニール全国キャラバン岡山講演会の参加者…などの多様な立場でこの時間に参加しました。

また、地域には、日々あまたに生まれては消えていく「学びあい」があると考えていますが、今回は「地域防災・減災・縮災活動」を基調に、「One River, One Community」・「地域災害文化の構築」とういキーワードを軸にして、岡山・東京・カトマンズに在住する13名の参加者と、約90分の「学びあい」の時間を共有しました。

筆者自身も、事前の準備や事後のふりかえりも含め、この90分の「学びあい」の時間が生成されていくプロセスにおいて、多くを学びました。そしてここで学んだものを織り込みながら、他の参加者(学習者・実践者)同様、また新しい「学びあい」の軸を地域のリソースを寄せ集めながら生成したり、地域の誰かのコーディネートするそれに参加したりすることになると考えます。

「防災⇄農業:ライフ・スタイル・シフトと米づくり」

稲刈りとハザ掛けも作業も無事終了!(左2番目:松畑先生、中央:小松さん、右:キルさん)

さて、会議が終わった午後の時間帯には、筆者の本業である農家として「学びあい」の時間をコーディネートさせてもらいました。

2017年に松畑煕一先生(岡山大学名誉教授)の呼びかけで、「人生100年時代のライフ・スタイルの研究」をテーマに、ライフ・シフト・ラボ岡山が発足しました。弊農園もそのメンバーの一員として2018年6月から、米づくり体験と哲学カフェをあわせた「田んぼde哲学」というプログラムを実施しています。シャプラニールのお二人にゲストとしてご参加いただきました。

前半の稲刈り作業では、小松さんは初体験とは思えぬ手つきで、そしてキルさんは、ネパールのご実家で鍛えた腕前をいかんなく発揮されました。刈った稲を束ねて天日干しをするためにハザにかけていくのですが、今年の稲藁の束ね方は「キルさん流」…稲作を中心に置いた、思わぬ経験交流(学びあい)の時間ともなりました。

後半は哲学タイム。この日のテーマは「災害は防げるか?防げないか?」です。全員が「防げない」ことを前提に、キルさんは「事前準備」の大切さを、小松さんは「自然現象と災害」、「人災と天災」などの視点から災害自体の定義を考えることの大切さを、そして松畑先生は前提に「防げない」ということは認めつつ、さりとて「防げる」という思いを持って、災害と主体的に向きあう姿勢の大切さを…など、参加者それぞれに多様な角度から意見がかわされました。

会の冒頭には、松畑先生から「日本では田舎の人口が減少してしまっているけど、ネパールはどうですか」とのキルさんへの質問があり、「ネパールでも、カトマンズなどの都市部や海外への出稼ぎで、若い世代が田舎から出て行っている」との答え。

その後の稲刈り体験では、40年ほどの年の差があるお二人に、幼少期の稲作技術が身に付いているという共通点があることがわかり、筆者にはそのことが両国の社会構造変化(都市化)のあり様を象徴しているようにも感じられました。 

災害の激甚化の大きな要因であると考えられる温暖化・気候変動。それを生み出した急激な社会構造の変化と、その縮減のためにわれわれが選択すべきライフ・スタイルのあり方について、ながらくそのライフ・スタイルの根源でありつづけてきた「米づくり」の実践を通じ、五感を使って理解を深めようとする「田んぼde哲学」というプログラム。ここで共有された「学びあい」の時間もまた、みなさんそれぞれの日々の「学びあい」の糧になればと思います。

次回は、筆者が防災会議を企画する「スイッチ」となった事柄や、その背景にある思いなどについて、またその後の地域活動についてお伝えいたします。

【参考資料】

① 「NPO法人シャプラニール=市民による海外協力の会」チトワン郡マディ市バンダルムレ川流域での防災活動

② 持続可能な地域づくりのための「学びあい」ハンドブック〜コーディネートとそのふりかえり

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