2020年3月10日

持続可能な地域づくりのための「学びあい」実践事例④

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小さな村の…大きな学び!?②
地域の開発問題と防災意識の高まり(みた農園 三田善雄)

前回は、「第1回大井地区国際会議」の概要についてお伝えしました。今回は、その会議実施の背景にある地域の開発問題や、西日本豪雨の経験を通して地域が学びあってきた「住民主体の流域マネジメント」「災害文化の創出活動」などの防災意識についてお伝させていただきます。

大規模開発、西日本豪雨、防災意識の高まり

地区上流の防災ダム(黒谷ダム)の洪水吐(こうずいばけ)からオーバーフロー(2018 年7 月7 日午前7 時)

当地区では2017年7月に、100ha規模の大規模森林伐採計画(太陽光発電施設設置計画)が急浮上しました。これに対し、大井地区連合町内会「里山活性化研究会」というグループを立ち上げ、建設反対活動を実施してきました。その活動の過程で計画地の土砂災害リスクへの懸念も高まり、メンバー独自での調査、専門家の講演会等を実施し、行政への陳情も行なってきました。

また、西日本の広い範囲が甚大な被害を受けた、2018年7月の西日本豪雨時には、当地域でも防災ダム(黒谷ダム)の洪水吐(こうずいばけ)からのオーバーフローがありました。これは1990年に、このダムが改修されてから初めての出来事であり、地域が大きな災害を覚悟した瞬間でした。実際には、限定的な床下浸水や小規模な土砂災害等はあったものの、幸いにも地域全域に及ぶような大規模な被害はありませんでした。

そういった経緯を背景に、地域での災害リスクへの意識も高まりつつあり、防災をテーマにした学びあいの時間も少しずつ増えています。

例えば、2018年4月には地盤環境評価・地下水の専門家の講演会、同年7月には避難所運営ゲーム(HUG)のワークショップ、2019年3月には河川の危険箇所の竹林の除去処理、同年8月には岡山県倉敷市真備町の水害被災者の講演会、9月には地元キャンプ場でのサバイバル・キャンプと水難対応訓練、12月には地区の水害史跡をめぐる歴史散策交流会などを実施してきました。また、今回の国際会議を共催した「足守中学校区防災会議」(事務局:足守公民館)には、里山活性化研究会のメンバーの多くが所属しており、足守中学校区全体の地域防災・減災・縮災活動にも参加しています。

災害文化の構築に向けて

大井地区の水害史跡を巡る!歴史散策交流会の開催(2019 年12 月16 日開催)

上述したような活動を列記すると、防災活動が活発な地域のようにも見えるかもしれません。しかし実状は、各プログラムへの参加者も限定的で、各単位町内会での自主防災組織の立ち上げや地域防災計画の策定などには町内会ごとの温度差もあり、地域全体としての足並はそろっていません。

また災害発生時に、ご近所の安否確認や避難支援などが漏れなく行なえるか?と問われれば、筆者も含めまだまだ充分な体制が整っているとも言えません。そのことは年末年始に、里山活性化研究会や足守中学校区防災会議で実施した「マイ・タイムライン(風水害の発生にそなえて、一人ひとりの家族構成や生活環境に合わせ、あらかじめ作成する自分自身の避難計画)」の作成活動を通しても実感しています。

2019年3月22日の足守中学校区防災会議では、同月20日に岡山県が主催した防災講演会の資料が共有されました。それは、岡山県「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」災害検証委員会で委員長を務められた河田恵昭先生(関西大学社会安全研究センター長・特別任命教授)のもので、タイトルは「住民の災害文化が命を守る〜文明から文化への熟成〜」です。

筆者がその資料で最も印象に残ったのは「災害文化」という言葉でした。資料では、7月豪雨時に避難指示の対象になりながら、実際に避難行動をとった人数の割合の低さ(災害弱者支援を実施可能な主体も避難行動要支援者になっている状況)が問題視されています。そしてその原因を、現在の文明(災害制御技術など)が進み過ぎ文化の面が追いついていない、文明と文化とのアンバランスな状態にあると言及されています。そしてその課題解決のためには、「洪水氾濫から避難する」という新たな文化的行為としての「災害文化」を構築することが必用であるとの提案がなされています。

そしてまた、National resilience(ナショナル・レジリエンス)は「国土強靭化」ではなく、家庭・職場・学校・地域・国家という人びとのコミュニティを豊かにすることであるとされ、「災害文化」の観点に立つ治水事業を通した「地域づくり」の必要性に言及されている点にも強く共感しました。

治山治水と流域マネジメント

1989 年(明治26 年)水害犠牲者慰霊碑にて(左:キルさん、右:小松さん)

2018年4月に大井地区連合町内会が主催した講演会では、西垣誠先生(岡山大学名誉教授/地盤環境評価・地下水)に「何のために森を守るのか?」というテーマでご講話いただきました。

そこで西垣先生が、岡山藩初代藩主の池田光政に仕えた儒学者(陽明学)熊沢蕃山(くまざわばんざん)の「治山治水(山を治めるは国の本なり)」思想を引き合いに、その重要性に触れられた「流域マネジメント」という言葉が、筆者の印象に強く残っています。内閣府の資料によれば「流域マネジメント」とは「流域全体の水循環の視点に立ち、流域の様々な主体がともに水のあり方を話し合い、水の脅威から生活を守りながら同時に水の恵沢を享受することに努め、流域において水循環の健全化に取り組むこと」とされています。

前回のブログで紹介した、国際防災会議が終わったお昼の時間帯に、ゲストの国際協力NGO「シャプラニール=市民による海外協力の会」の小松豊明さん(事務局長)とキル・バハドゥール・ガレさん(ネパール事務所プログラムオフィサー/防災事業担当)のお二人を2つの施設にご案内しました。

一つは平安時代に起源をもつ高梁川中流の湛井堰(たたいせき)で、現在でも高梁川両岸12000haを潤す地域治水の要の施設です。この井堰を記念する公園には、1893年(明治26年)の高梁川の大洪水による犠牲者の慰霊碑があり、ゲストのお二人とお参りさせていただきました。

もう一つは、当時禿げ山だった鬼ノ城(きのじょう)山塊の南西麓に明治時代に作られた石造砂防堰堤です。これは熊沢蕃山の思想(「治山治水」など)に深く傾倒した郷土篤志家の宇野圓三郎が、高梁川の大洪水を受け岡山県知事に直訴し1900年(明治33年)に建築したもので、現在は国の有形文化財にも登録されています。彼の鬼ノ城山塊での砂防堰堤工事の開始は1880年(明治13年)で、設置した堰堤は全部で23基にのぼります。また同時に花崗岩地帯であるこの山塊に、広範囲な松の植林事業も行い土砂の流出軽減にも尽力しました。

これらの施設(遺構)は、まさに「流域マネジメント」の視点に立った「治山治水」事業であり、またそこにやどる災害に対する精神性は我々の伝承すべき地域の「災害文化」であると考えています。

またこれらの視点は、シャプラニールがネパールで「One River, One Community」をテーマに実施されている、地域住民参加型の地域防災活動とも多くの共通項があるのではないかと感じており、シャプラニールのお二人にも何かしらの参考になればとご案内させていただきました。そしてまた同時に、この山塊のちょうど反対側の北東麓には大井地区の大規模森林伐採計画予定地が位置しており、今回の国際防災会議を通して、我々の地域の直面する開発問題への理解もより深まることにもなりました。

次回は、国際会議での「学びあい」ハンドブックを使った活動評価と会議後に実施した稲会体験の様子について紹介します。

【参考情報】

大井地区連合町内会「里山活性化研究会」の活動

②2019 年 2 月 4 日「災害情報と災害文化」河田恵昭(関西大学社会安全研究センター長・特別任命教授 阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター長)・PDF データ

③平成 30 年 7 月「流域マネジメントの手引き」内閣官房水循環政策本部事務局・PDFデータ

④湛井堰(たたいせき/岡山市総社市湛井/高梁川)〜平安時代から美田をうるおす十二ケ郷用水の要〜・PDFデータ

⑤井風呂谷川砂防堰堤群(いふろたにがわさぼうえんていぐん/岡山県総社市見延)〜国登録有形文化財・岡山の近代砂防発症の地〜・PDFデータ

「NPO法人シャプラニール=市民による海外協力の会」チトワン郡マディ市バンダレイムレ川流域での防災活動

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