2020年3月10日

持続可能な地域づくりのための「学びあい」実践事例③

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小さな村の … 大きな学び!?①
第1回大井地区国際防災会議(みた農園 三田善雄)

2019年9月14日(土)~15日(日)にかけて実施された、「地域・学びあい・入門セミナー」に参加した団体が、その後、地域でどのような活動をしているのかご報告いただいています。今回から、みた農園(三田善雄)さんに、連載(全4回)で報告いただきます。

小さな村の … 大きな学び!?① 〜第1回大井地区国際防災会議〜

これから、昨年11月に岡山市の大井地区で行なわれた、国際協力NGOと地元町内会組織との小さな国際会議について、4回にわけてお伝えさせていただきます。会議のテーマは地域の防災・減災・縮災です。初回は「会議の概要」についてご報告します。

会議前、地区を流れる足守川と日近川との合流地点で、「ハザードマップ」と「西日本豪雨時(2018 年7 月7 日午前8 時)の写真」を確認。(右:小松さん、中:キルさん、左:筆者/写真撮影:森田靖さん)

会議は、第1回大井地区国際防災会議〜「One River, One Community」・地域災害文化の構築に向けて〜と題して、2019年11月2日(土)9:45〜11:10、岡山市北区の足守公民館で実施しました。

ゲストに、全国キャラバン活動で岡山を訪問中の国際協力NGO「シャプラニール=市民による海外協力の会」の小松豊明さん(事務局長)とキル・バハドゥール・ガレさん(ネパール事務所プログラムオフィサー/防災事業担当)をお迎えし、互いの地域での防災・減災・縮災活動事例を学びあいました。この会議は、大井地区連合町内会「里山活性化研究会」と足守中学校区防災会議の共催で実施し、ゲストのお二人のほかに、大井地区連合町内会長、単位町内会長、農家、福祉施設所長、郷土史愛好家、キャンプ場オーナー、公民館職員、自治体職員など13名が参加しました。

合い言葉は … One River, One Community


地域住民と共に籠に石を詰める事業スタッフ(写真提供:シャプラニール=市民による海外協力の会)

冒頭、小松事務局長より、2016年よりサポートされているネパールのチトワン郡マディ市を流れるバンダルムレ川流域での地域防災活動について、ご報告いただきました。

バンダルムレ川は全長10km、川幅は平均で30m、流域には8つのコミュニティがあり、約1000世帯7000人の生活があります。毎年のように洪水が発生するこの土地で、本当に「災害に強い地域づくり」をしていくためにはどうしたらいいのか?8つのコミュニティそれぞれで、コミュニティ災害管理委員会が結成され活動について定期的な話し合いがもたれます。さらにそれぞれのコミュニティの代表が集まり、この川全体をひとつのコミュニティと捉え、どこにどのような対策を行えばコミュニティ全体の被害を軽減できるのかを考えました。日本からは専門家も派遣され現地調査を踏まえたアドバイスも実施。平行して各コミュニティでの丁寧な聞取り調査も行なわれました。

最初は「シャプラニールは話を聞くだけで何もしてくれないではないか」という意見もあったり、川の拡幅工事のために必用な地主さんとの土地提供交渉にご苦労されたりと、なかなか活動がうまく進まない時期もあったそうです。

ただ粘り強い丁寧なコミュニケーションを通して、地域住民のみなさんのシャプラニールの実施する地域防災活動への理解も深まります。そして例えば、村の人たちで集まり、以前の水害の経験を話しあいながら、危険箇所をみんなの手で地面に下書きをして、ハザードマップを作成したり。河川の拡幅工事で新設された土堤を補強するための蛇籠づくりに、工事関係者だけでなく地域住民も参加したり。あるいは地域の学校で防災学習プログラムを実施したりと、コミュニティ災害管理委員会で議論された河川全域を包括的にとらえた防災活動計画に、地域住民が主体的に参加する地域防災・減災活動がいくつも産み出されます。

限られた時間の中でたくさんの制約はあったと思いますが、「One River, One Community」を合い言葉に流域全域で重ねられた丁寧なコミュニケーションが、まさにシャプラニールらしい地域防災・減災・縮災実践を結実させたのだと感じました。

学びあい!…村の取組報告

地元キャンプ場で実施した水難対応訓練の様子(2019 年9 月7 日)

次に、大井地区での取組みを中心に4つの地域活動が事例報告されました。

まず、スマートフォンなどで撮影した写真をWEB上のマップで共有する、「地域防災情報の見える化システム(ボーサイGIS)」の概要について、開発を担当する里山活性化研究会メンバーから説明がありました。西日本豪雨時に近隣の情報が全く分からず、避難経路や避難のタイミングの判断に困ったという開発動機や、システムの地域での実用に向けた課題共有などもなされました。

つづいて昨年3月に、「足守川河川敷の竹林除去活動」を実施した大井新町町内会長から活動経緯の報告がありました。この河川敷は足守川と日近川の二つの川の合流地点のすぐ下流(事前にゲストのお二人とも下見:ブログ冒頭の写真)に位置し、大井地区のハザードマップでも最も浸水深度の高い場所です。西日本豪雨時には、川のぶつかる山の斜面の小規模崩落があり、近隣住民は非常に高い危機感を覚えました。そこで昨年、町内会の有志メンバーが中心になり地元消防団も協力し、河川敷の竹の焼却処理(行政により伐採)が実施されました。

次に今年9月に、地元のキャンプ場で実施した「サバイバル・キャンプ」「水難対応訓練」(岡山市消防局が協力)について、筆者から報告をしました。キャンプ場オーナーの指導のもと、焚き火づくり、ナイフやノコなどの道具の使い方、野外トイレづくり、アヒルの解体などのサバイバル技術を体験。そして岡山市消防局航空隊(潜水隊経験者)の指導で、着衣水泳、命綱の投げ方、ボートでの救出訓練などを実施しました。

そして最後に今年10月1日(5・6時限)に、岡山市立足守公民館と岡山市立足守中学校が共催で実施した避難所運営ゲーム(HUG)の実施報告が、公民館職員からありました。当日は中学校全生徒、教師、地域の方々など約200名が中学校の体育館に参集しゲームを実施。生徒たちの積極的な発言に、地域の大人も気持ちを新たにする「学びあい」の機会にもなりました。「これからも地域の子どもたちと大人が一緒に地域の防災について考えらえるような機会を設けていけたら!」との、報告者の力強い言葉も印象に残りました。

「事前準備の大切さ」などを確認!…参加者の声から

下記では当日筆者が書きとめた、国際防災会議への参加者の声を箇条書きにします。

・マディなどの都市の周辺地域では、都市部への移住や海外への出稼ぎで高齢者と子どもの人口割合が多い状況が起こっている。(日本の「過疎化」とも近い状況)

・マディでは伝統的な地域のおまつりが、若者の一時帰省の機会になっている。

・マディでの防災活動で一番大切に考えていることは「事前の準備」。

・シャプラニールの防災活動の経験を通して、災害が起こってからの対処療法中心の活動を、「事前の準備」に変えて行く必要性を強く感じている。

・流域(上流・下流)全体(One River One community)で防災、減災、縮災活動を実施していくことが重要。

・過去に地域で起こった災害の記憶や記録を学びあいながら、事前に災害の発生状況を予測し、対応策を立てることが大切。

・大井地区、足守中学校区の活動事例が参考になったので、マディでも情報共有したい(ボーサイGISをマディでも導入できないか検討してみたいなど)。

・(足守川河川敷の竹処理活動事例について)行政と地域との守備範囲の違いが明確で、インフラ整備や住民の地域防災活動への主体的な参加のなどのあり方について、あらためて考える機会になった。

・流域全体で防災、減災、縮災活動が進められることを羨ましく思う。課題として強く認識してきて来たが、足守川・笹が瀬川流域全体となると非常に難しい。

・相対的にネパールは識字率が低い状態(平均約70%、男女差、地域差もあるはず)下での啓発活動を根気強く実施されている。

・遠いネパールの活動ではあるが、我々の地域が学ぶべきことがたくさんあった。

・足守川流域の防災をテーマに、公民館活動などを通して、複数コミュニティでの意見交換会の実施等も摸索して行きたい。

次回は、当地区でこうした防災会議を実施するきっかけとなったできごとや、その問題への対応を通して地域住民が学びあい、互いを高めてきた様子について、ご紹介します。

参考情報

「NPO法人シャプラニール=市民による海外協力の会」チトワン郡マディ市バンダレイムレ川流域での防災活動

②「大井地区の概要」岡山市北西部に位置する人口約1,300人(約650世帯・高齢化率約40%)の農村地帯。岡山市連合町内会HP内「大井地区連合町内会」

大井地区連合町内会「里山活性化研究会」の活動

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