※「座談会プロジェクト」の趣旨や経緯などは、「座談会プロジェクトについて」をご覧ください。
2021年8月4日(水) 第1回座談会企画
ゲスト:みた農園 三田善雄さん
座談会第一回目は、みた農園の三田善雄さんをお迎えしました。
三田さんは岡山にUターン後に新規就農され、水稲・原木椎茸栽培をメインに、地域での里山活性化研究会の活動に参加されています。地域での大規模森林伐採(メガソーラーの開発)計画をきっかけに、勉強会などを開催し、より多面的な地域の理解促進や、地域づくりのための学びあいのための活動に取り組んでいらっしゃいます。
三田さんを囲んでの座談会は、「開発」と「教育」を捉えなおす貴重な機会につながりました。岡山県北区大井地区での大規模森林伐採(メガソーラー開発)計画を含む、近況を共有いただいた後、事前にお伝えした参加者からの質問に答える形で、三田さんからいくつかの資料を通じて、見方や視点を提示いただきながら、座談会参加メンバーと話しを展開していきました。ブログでは、その展開とお話しの概要を紹介したいと思います。

【参考】『持続可能な地域づくりのための「学びあい」実践事例』としてこれまで投稿いただいたブログ記事はこちら:
- ・小さな村の…大きな学び!? ①地域の開発問題と防災意識の高まり (みた農園)
- ・小さな村の…大きな学び!? ②地域の開発問題と防災意識の高まり(みた農園)
- ・小さな村の…大きな学び!? ③~国際防災会議の「ふりかえり」と「田んぼde哲学」プログラム~ (みた農園)
- ・小さな村の…大きな学び!? ④~「学びあい」のスイッチ!とその後の活動~(みた農園)
参加者からの事前の質問1
「文化的反抗」とは「精神的で、直感的で、魔術的」なもの? いう表現にみる「精神的で、直感的で、魔術的」ということばの意味と、これらのことばがもつ学びにとっての意味とは? |
「精神的で、直感的で、魔術的」なものの価値をどうやって共有していくのか? 背景や考え方が違う人々がいる地域の中でだけでなく、対外的にも。 |
【参考】『開発教育67号』(DEAR)に三田さんが寄稿した「気候変動対策と持続可能な地域づくり」において触れられた、「多くの国において、科学や技術や環境計画の合理性という幻想から次第に自由になって、もっと精神的な、直感的な、ときには魔術的とさえいえるような方法で人生の意味を洞察しようという方向への変化がみられるのも事実である。」という文言を踏まえての質問。
※参考)『子どもの参画-コミュニティづくりと身近な環境ケアへの参画のための理論と実際-』ロジャー・ハート(2000)
■ブリコラージュ
この日の1つのキーワードが「ブリコラージュ」(※1)という言葉です。ブリコラージュは、未開社会の思考様式の特徴を表す言葉で、文明社会が「概念」を重要視するのに対して、ありあわせの道具などの身近な具体が状況に応じて様々な意味を持つという「記号」を重要視します。概念とは異なり、計画通りに完成することを重要視しないため、絶えずよりよいものを作りつづけることになります。
文明社会ではブリコラージュのような在り方は「精神的で、直感的で、魔術的」な未開性として、排除の対象にもなってきましたが、それは社会の豊かさを相対化させたり、ときには文明社会への反抗の基点になりうるかもしれません。
また、地域実践や地域づくりでコーディネーター的な役割を担っている人は、その役割や機能を見ると、ある意味では「ブリコラージュ的」な側面を持っているとも言えます。話を広げたり狭めたりしながら、座談会参加メンバーそれぞれの視点で、「ブリコラージュ」に関する理解を深めていきました。
※1)『野生の思考』(クロード・レヴィ=ストロース)
■PDCAとAAR
次に、AAR(Anticipation, Action, Reflection)という考え方を紹介いただきました。従来のPDCA(Plan, Do, Check, Action)が、数量化ベースで、バックキャスティングによる目標を達成するためのモデルであるのに対して、AARは目的に固執せず、日々の暮らしを改善する現状改善モデルとなります。
Anticipationは、予期という意味だけでなく、うきうきや楽しいことも含まれます。一緒に楽しく作ってく中で、うまくいかなかったら日々改善するという、現状改善モデルです。この試行錯誤全体が学びになります。(※2)
外に向けて話す場合は、論理的枠組みや、具体的な枠組みを活用しますが、目的だけではうまくいかないのが現実でもあります。ありあわせのものを使って、常にもっといいものを、目的が特に定まっていなくても、感覚的に作っていくことや、今ある概念を相対化する視点の大切さや、概念を中心としているもの・ことを相対的にしていく必要性に気づかされました。またこういう価値を共有していくことの重要性についても考えさせられました。
※2)第32回全国公民館セミナー プログラム7:《講演》社会をつなげる公民館へ 牧野篤 大学院教育学研究科教授(生涯学習) https://www.youtube.com/watch?v=Tc1JInVs-bQ
■依存と自立(二項対立思考の相対化)
次に、熊谷晋一郎さんのお話が紹介されました。依存と自立は反対ではない。一方がなくなればというものではなく、つながりがあります。健常者は、自立している錯覚があり、例えば、世の中のほとんどの者が健常者用にデザインされていて、その便利さを依存していることを忘れている、ということがあります。また、絶望を分かち合えた先にある希望についても触れられました。
※3)TOKYO人権 第56号(平成24年11月27日発行)インタビュー 自立は、依存先を増やすこと 希望は、絶望を分かち合うこと https://trackings.post.japanpost.jp/services/srv/search/input
参加者からの事前の質問2
三田さんが実施されている、地域のことを地域の人たちの言葉で語るプログラムについて、重視していることは何か。語ることで見えてきたことは何か? |
■当事者性と他者性
遠くにいる人がきれいな計画を地域に持ち込むことによる問題だけではなく、地域の人も遠くの人になっていることがあるのではないでしょうか。
最近では、2021年7月に熱海で土石流があり、盛り土を造成したにもかかわらず崩落を防ぐ措置をとらず、安全対策の工事の必要性を認識しながら放置し続けた、ということがありました。当事者性が失われる状況を生み出しているのには必然性があります。分からない人たち・遅れている人たちではなく、また、意識の高い人が一人で頑張るのではなく、必然的につなげていくために、当事者性を自分たちで見つけ直し、当事者性を取り戻すプロセスが重要なのではないか、というお話をしていただきました。
参加者からの事前の質問3
地域で(反対)活動を展開する際に“拳をあげて運動を起こす”かたちではない、“学びの輪を広げていく”なかで展開することを大切にする意義と一方でそこにみる課題とは何か?また、なぜそのような“学びあい”を通して地域活動を展開する意義を感じたきっかけはどんなことか? |
■拳と学び
拳を挙げることも時には大事である一方で、反対する・されるの二項対立構造の中だと、反対される側は時間もお金もあるけれども、反対する側は、疲弊し、やがて勝手に排除されることにつながること、また、同じ時間を、後々の地域につながることにしたいと考えをお話しいただきました。
問題を生み出した当事者として、問題を共有するという形で向き合うこと自体が学びの循環につながるのではないか、一方でわかりづらさが課題でもあるし、言い続けるのもしんどいということはある、という言葉には目先の問題だけでなく、より大きな視点で地域と向き合う必要性を感じました。また、長期的に関わり、おかしいと感じて行動する当事者性自体が「地域文化」として根付いていく必要があります。また地域文化には先人の当事者性の痕跡があることを再認識し、共有していく必要があるのではないか、というお話もしていただきました。
参加者からの事前の質問4
「持続可能性ということばを目的にした瞬間に排除しないといけないものが出てくる」という表現の意味と、この意味から考えるこれからの ESD や SDGs との対応・対峙の仕方とは? |
今後、各地域での開発教育の実践の展開を促進するために、DEAR ができること、 提供できることはどのようなことがあるか? |
■持続可能性と開発教育の役割
三田さんからは、「持続可能性を概念として捉えると、目的合理性が働きがちになる。そこでは、揺れ、ズレ、多様化されているものが排除されていないだろうか。一見無駄なもに感じるものに目を向けたり、てざわりのような感覚など大事にするべきではないか。そういったことは開発教育だから提示でいることではないだろうか。開発教育の役割は、相対化するための聞き役となり、そこに働く開発の視点、多様性、危険性を意識化することなども、よりよい地域づくりにおいては大切なことではないかと感じている」ということをお話しいただきました。
次回は「学びあい座談会プロジェクト」第2回の報告です。お楽しみに。
第1回 みた農園(岡山県)の三田善雄さん |
第2回 にいがたNGOネットワーク国際教育研究会RINGの皆さん |
第3回 バニヤンツリー(秋田県)の藤本恵子さん |